2025年4月13日、2025年日本国際博覧会が開幕しました。
通称「2025年大阪・関西万博」と呼ばれ、期間は184日間で10月13日まで開催されます。
さて今を遡ること55年前の1970年、大阪府吹田市で日本万国博覧会が開かれました。
戦後から25年、高度経済成長中の日本が主催するイベントで、日本全体が未来に夢を抱いていた時代の象徴的イベントでした。
今回はその日本万国博覧会にちなんだ、ディストピアな未来が登場するマンガ:「20世紀少年」を紹介します。
ネタバレありで解説しますので、まだ見ていない方はご注意ください。
あらすじ
1969年、小学生のケンヂとその仲間たちは、秘密基地で未来の地球を救う正義の味方の物語を「よげんの書」に書き綴っていました。
時は流れ、1997年。ケンヂはかつてのロックスターになる夢を諦め、コンビニエンスストアを経営しながら、失踪した姉の残した姪のカンナの面倒を見ています。
そんな中、ケンヂの周りで、子供の頃に書いた「よげんの書」の内容と酷似した奇妙な事件が次々と起こり始めます。
謎の教祖「ともだち」が率いる新興宗教団体の存在、世界各地で発生するテロ、そして幼い頃の仲間たちの再会。
ケンヂは、これらの出来事が「よげんの書」と深く関わっていることに気づき、世界を救うための壮大な冒険に巻き込まれていきます。
物語は、20世紀末の暗躍から、2015年に「ともだち」が世界の救世主として君臨する世界、そして人類滅亡の危機が迫る未来へと、壮大なスケールで展開していきます。

見どころ
緻密な伏線と巧妙なストーリーテリング
過去の出来事と現在の事件が複雑に絡み合い、SF的な要素とミステリー要素が融合した読者を飽きさせない巧妙なストーリー展開が魅力です。
そして世界的陰謀、カルト、テロ…と物語が次第に大きくなり、緻密な伏線が多数仕込まれています。
謎に満ちた「ともだち」の正体
物語の中心となる謎の人物「ともだち」の正体を巡る考察は、読者の間で大きな話題を呼びました。
個性豊かなキャラクター
ケンヂをはじめとする、魅力的なキャラクターたちが織りなす人間ドラマも大きな見どころです。
時代と社会への深い洞察
1960〜70年代の日本の音楽や文化が随所に散りばめられており、特に「ユーモアのある懐かしさ」が魅力です。
また20世紀の出来事や社会問題を背景に、人間の心の闇や希望を描き出しています。
ともだちについて
ここでネタバレします。
「ともだち」は、ケンヂたちの同級生であるカツマタくんです。
彼は子供の頃、仲間に入れず、影で皆の妄想や「よげんの書」を盗み見ていました。
ともだちの目的
① 世界征服
「ともだち」は、子供時代の“正義ごっこ”や“ヒーローごっこ”を現実の計画として再現し、「救世主」になろうとしました。
② 幼少期のリベンジ
子供時代に仲間にされず、無視されていた「カツマタくん」はその反動から自身が世界の中心に立つことを望んでいました。
上記2つの願望をベースに大人になるにつれその思想は歪なものとなっていきました。
「この世の中、誰が正義なのか?」
「悪を倒せば正義なのか?」
「子供のころの夢が現実になるとしたら、それは正しいのか?」
そして「ケンヂたちが描いた未来」を横取りし、自分がヒーローになろうと計画します。
ともだちの計画
ともだちの計画は、ケンヂたちが子供の頃に妄想で描いた「よげんの書」を忠実に再現する形で進められます。
自らが作り出した危機(ウイルス兵器・ロボットなど)で世界を混乱させる
↓
それを解決したかのように振る舞い、救世主として崇拝される
↓
やがて「ともだち教」としてカルト化し、国や人類を思想的に支配していく
ここでポイントとなるのが「ともだち教」というカルト団体を立ち上げたところです。

ともだち教について
1990年代半ば、カツマタくん(仮のともだち)が、秘密裏に「ともだちマーク」を使い始め、思想団体を形成しました。
1997年ごろにともだち教の教義(実はよげんの書)を元に信者を集め、計画実行の準備を始めます。
「世界の終わりを予言し、それを救う者」として、ともだちは救世主的存在に自分を仕立てるという計画です。
そして「カルト宗教+終末思想+個人崇拝」という、典型的な新興宗教モデルが完成しました。
〇教義
ともだち教の教義は以下のようなものです。
「世界の終末は近い」
「ともだちはそれを救う唯一の存在」
「信じれば選ばれし者として新世界に行ける」
一見すると単純な教義ですが、社会不安や救世主を求める心に「ともだち」がうまく入り込んだ結果、人々はともだちを崇拝していくようになりました。
この教義をプロパガンダや教育施設(ともだちランドなど)を通じて、子供から大人までを洗脳していきました。
〇組織拡大
「ともだち教」は、宗教だけでなく政治・メディア・科学機関にも影響力を持つようになります。
2000年の「血の大晦日」の事件を通して、「ともだち」が世界を救った英雄とされ、さらに影響力を拡大していき、ついには国家レベルの宗教国家として日本はともだち教に支配されていきました。
〇最終目的
最終的にともだち教は、世界を一度破壊し、
・「信じる者だけの新世界」を作る
・ともだちを「神」として永遠に崇めさせる
という、完全なる神化と選民思想による支配にたどり着きます。

20世紀少年と大阪万博
物語で度々、大阪万博(1970年)がキーワードとして登場します。
『20世紀少年』のテーマの一つは「子供の頃の夢や理想が、大人になってどう歪むか?」です。
それが直接的に描かれるのが大阪万博に関連したところです。
大阪万博は「理想の未来」だったはずなのに、それが「ともだち」によって恐怖と支配の装置に変えられていき、ノスタルジーとディストピアが入り混じるようになる。
ここでは大阪万博と20世紀少年の関係について見ていきたいと思います。
子供時代の象徴 ―「未来」への憧れ
1970年の大阪万博は、日本全体が未来に夢を抱いていた時代の象徴です。
ケンヂたちが少年時代を過ごしたのはちょうど万博の時期です。
「科学の進歩」「宇宙」「ロボット」など、未来への希望やワクワクが詰まっていました。
彼らの「よげんの書」や「秘密基地ごっこ」などの“ヒーローごっこ”は、当時の万博的な「未来イメージ」がもとになっています。
万博会場と「ともだちの計画」
「ともだち」は、ケンヂたちの描いた“未来像”を再現しようとします。
その中に出てくるのが、巨大ロボット、ウイルス兵器、秘密基地など、いずれも万博的未来像のパロディや反転です。
つまり、“子供時代の夢”を使って“悪夢”を作ったという構図になります。
太陽の塔と「ともだちのシンボル」
大阪万博のシンボルである岡本太郎の《太陽の塔》は、作中でも象徴的に登場します。
ともだちマーク(目と指)のデザインも、どことなく《太陽の塔》を思わせる不気味さを持っており、万博の未来像が宗教的カルトに変化したような対比がなされています。

決戦の場所
劇中の2015年、ともだちは東京で万国博覧会を開きます。
メイン会場で「ともだち」がローマ法王暗殺を阻止し、暗殺事件と同時に発生した謎のウイルスの蔓延により、世界は荒廃していきました。
ウイルスに対抗できるワクチンは「ともだち」とその周辺幹部に管理され、ついにともだちは世界大統領に上り詰めます。
物語の終盤、「ともだち」は世界滅亡計画を発表します。
東京の万博会場内にある太陽の塔に反陽子ばくだんを仕掛け、世界を終わらせる計画です。
それを主人公と仲間たちが阻止しようと集合し、ラストを迎えます。
このように20世紀少年における万博は重要な役割を果たしているのです。
20世紀少年とディストピア
マンガ、20世紀少年は、ジャンル的にはサスペンス、SF、ミステリーです。
しかし劇中、カルト宗教が巨大化し、国政に入り込み、ついには世界を征服するという思考実験的作品でもあります。
出版・放送の検閲、思想犯の投獄、ともだちランドなどの施設を利用した洗脳など、ディストピア要素をマンガという分かりやすいツールで我々に最悪の未来を教えてくれます。

現在開催されている「2025年大阪・関西万博」は素晴らしい技術、素晴らしい文化の見本市です。
しかし、もし歪な思想を持った誰かに悪用された場合、世界は大きくマイナスな方向へ進んでいくのではないでしょうか?
このブログでは今後もディストピアに繋がるトピックをご紹介できたらと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。